あらすじ
　パパに連れられて赤沢谷にスキーに来たリミット。民宿を営む竹入（たけいり）さんはパパの知り合いで、かつては日本一の猟師だったのだが、狩猟がレジャー化する風潮に嫌気がさして銃を捨てた経歴の持ち主だった。ところが、昔の猟師姿の父親にあこがれる息子のマサルは、勝手に鉄砲を持ち出しては鳥や獣を撃ち、やめさせようとする父親と衝突を繰り返している。折から赤沢谷には、ニホンオオカミが生き残っているという噂がひろがり、幻の狼を狙うハンターたちが大勢集まって捜索を続けていた。
　マサルは、自分こそが狼を仕とめるのだと意気込んで緑の谷に向かうが、ハンターたちの喧騒で冬眠から目覚めたクマと鉢合わせしてしまう。リミットも居合わせたが、ミラクルパワーでもクマを退治する自信はなく、恐怖に体がすくんで目をつぶるばかり。ところが、あわやクマが襲いかかろうかという瞬間、一匹の狼が現れてクマと争いはじめ、ついには追い払ってしまう。気をとりなおしたリミットは、狼ならば倒せるかもしれないとペンダントに手をのばすが、マサルは、何かに思いあたった様子で親しげに狼に呼びかける。
　マサルを助けた狼は、実は、以前に竹入さんが山で拾ってきて犬のつもりで育てていたシバだった。いつのまにか姿を消して野生に帰っていたシバは、マサルを慕って人里に下りてきたところを見られ、幻の狼と騒がれていたのだった。シバはふたたび姿を消すが、昔のアルバムを調べたパパは、まちがいなくニホンオオカミだと断言する。
　なんとかシバを助けたいと願うマサルだっが、すでにハンターたちは的確にシバの潜伏場所をしぼり込んでいた。「いるとすれば緑の谷の北側しかない。その先の絶壁は獣でも超えられまいから、いなければ幻だったということだ」……マサルはシバを連れて前人未踏の絶壁を越えようと決心するが、そのときにはもう、狼の気配を嗅ぎつけた猟犬の群れとハンターたちが背後に迫っていた。リミットは、フラワーリングで猟犬の鼻を惑わせ、囮になってミラクルランで雪山を駆けて、マサルたちが逃げるまでの時間を稼いでやるのだった。

みどころ
　　「昔の猟師は生活がかかっていたからこそ鳥や獣を大切にしたのに、最近のハンターは楽しみ目当てで殺すことしか考えていない」と嘆きながら、自分が鉄砲を手放しただけで、黙々とレジャー目的のハンターたちを客として受け入れている竹入さんの姿が痛ましい。でも、そこには、いかに嘆いてみたところで、もはや個人の力ではどうにもできない大きな時代の流れがある。そんな現実を冷静に直視した本編は、まさに大人の再三の鑑賞に耐えうる珠玉作だ。
　この頃のアニメに出てくる蒸気機関車といえばＤ５１が定番だが、冒頭、赤沢に向かう列車を牽いていたのはＣ１１なのがめずらしい。本編に姿をみせたC1164は、1970年代初期まで会津若松機関区に所属して磐越西線を走っていた実在の機関車。この回が放送された74年2月にまだ現役でいたかどうかは不明だが、その後、京都の梅小路蒸気機関車館に移されて今日まで静態保存されている。（リミットちゃんが乗った蒸気機関車に触りたい人は梅小路へ急げ！）
　……ということで、本編の舞台は福島県か？　残念ながら磐越西線には「赤沢駅」がないが、会津若松から分岐する只見線の只見駅のそばには「赤沢」という地名がある。近くにはスキー場もあるし、東北地方は、信州とともに最後までニホンオオカミが生息していた可能性が高い地域と考えられているので、まずは「幻の狼」の舞台として合格だろう。「赤沢駅」にこだわるならば、長野県の、1960年代半ばに廃線になった木曽森林鉄道小川線の赤沢駅がある。現在では観光用に復活した赤沢森林鉄道があるが、赤沢という名前の駅は残っていないようだ。
　ニホンオオカミは、1905年に奈良県吉野郡で捕獲されたのを最後に以後は確認されていないが、専門家のあいだでは、おそらく大正時代から昭和初期頃までは、東北・中部地方などで生息していたであろうと言われているようだ。その後も目撃談の類は枚挙にいとまがなく、最近でも秩父や九州で話題になったばかりだ。

ヘンだぞ !?
　山犬の子供だと思って拾ってきたら狼だったという説明だが、実は「山犬」は狼の別称で同じものなのだそうだ。野生の犬は、正しくは「野犬（のいぬ）」と呼ぶらしい。（ツッコミというよりも単なる受け売り）